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東京外国語大学シリア研究会

جمعية طلاب اليابان وسورية

私が東京外国語大学シリア研究会での活動を行うにあたって、個人的に常に指針としてきた柱が二本ある。

【想像力と知識】そして【実現】である。

 

 

一点目に関しては、アラビア語専攻として大学に入学した時から、気を付けなければならないと考えてきたことだ。研究するにせよ、協働するにせよ、対象をとらえるにあたり、想像力と知識が欠如した状態での無意識の判断は、対象を傷つけることに結びつく。私はその点に十分に気を付けているつもりであった。だが、私の想像力には限界があった。いくら気を付けているふりをしても、今困っている人の力になりたいと口先だけでは言っていても、ヨルダンに行って実際にホストコミュニティで暮らすシリア人達に会うまでは、どう困っているのか、何を思って暮らしているのか、どんな表情で生活を送っているのか、どうしても想像できなかったのだ。単純だと我ながら呆れるが、彼らとわずかばかり生活を共にした今となっては、シリア人ホストファーザー(見た目ダンディーなのに超お茶目)が誤ってナイフで指先を切ってしまっただけでも心配なのに、もし戦闘に巻き込まれたら・・・と思うだけで身がすくむ。もちろん、私はこのことから、直接現地に行ってシリア人避難民たちに会わなければ意味がないと言いたいわけでは全くない。事件で報道される被害の「数」、研究対象としての「文書の中での存在」には、自分と同じ感覚や生活を持った人々が息づいていることを、皮膚感覚でとらえて初めて、彼らを理解できると考える。――問題は下にある。このことへの想像力を失ってはならない。

 

しかしこれだけでは、あまりに感情的すぎる。想像力は、行動の動機を誤らないためにはとても大切なものだが、感情論ばかり主張しても、誰の心も動かない、何も解決しない。そこで必要不可欠になってくるのが知識だ。問題を正しく取り扱うためには、知識の研究が不可欠である。(また「東京外国語大学アラビア語専攻の学生を中心とした」シリア研究会には、外部からとりわけこの点を期待されているとも思う。)この点に関しては、現代表である私個人の勉強不足という反省を述べなければならない。「研究会」と名乗る以上、勉強会の内容の充実や深化をはかるべきだった。しかし今のシリア研究会メンバーにとっては、私の反省を述べた所で釈迦に説法であろう。中東理解への熱意をもった新メンバーたちを中心に、それらを軽々飛び越えて、シリア研究会は、これから日本とシリアを結ぶ新しく面白い境地を切り拓いていくだろうと確信している。

 

 

二点目に関しては、求められていることと、自分たちに出来ることの最大限を実現したいという強い思いからである。私が強くそう考えるようになったのは、ある一人の学生との出会い故だ。

 

今の手紙プロジェクトの現地仲介人をしてくれている、バディーアというシリア人女性がいる。彼女は23歳という若さ、かつ女子大生という立場でありながら、自分の能力を余すところなく活かし、自分に実現できる最大限を実行している。例えば、自分がデザイン学科の学生であることとシリア内のおば様たちの手芸能力を活かし、手芸品を国内外で販売して、シリア内の女性達の収入に繋げる活動を行っている。彼女は、おば様たちと始めは衝突しつつも、伝統的な柄から脱却させ、より海外に売れるようなデザインを提案し、非常に質の高い商品を作って成功を収めている。また、マーケティング能力にも長けた彼女は、シリア内の安価なヨーグルトが、非常に質が高く貴重なものとして湾岸諸国で売れることに気づき、それらをシリアから湾岸諸国へ輸出する手伝いもしているそうだ。そして、大学生という「教育を受けている者」という立場から、シリアからヨルダンに避難してきた家庭のうち、様々な理由から子どもを学校に通わせない家庭を粘り強く訪問して説得し、学校に通わせるようにさせた。その際、ヨルダン側の小学校がシリア人の子どもたちを学校に受け入れないのであれば、ヨルダン政府の教育省まで乗り込み、子どもたちがシリア人コミュニティーに溶け込めないと言うのであれば、学童保育のセンターを設置し、情報共有・基礎教育の補助の場を自らマネジメントして作ってしまうのだから、驚きである。

今、まさにシリアに帰れない状態のシリア人学生が、ここまでタフに頑張っているのを見ると(まあバディーア姐さんは神すぎるとしてもね)、敬服すると同時に、こちらだって何かやってやるという気にさせられてしまう。彼女は「全ての人は、自分に出来ることで何か人の役に立つ義務がある。だから私は、今自分に出来ることをしているの」と言っていた。

シリア研究会だって、せっかく、何かを変えられる力を持っているのだ。それを使わないのは惜しいではないか。

シリア研究会
2nd President
Misako Nakayama

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